上海アップグレードとETH市場
米国の大手暗号資産(仮想通貨)取引所コインベースは14日、イーサリアム(ETH)の「Shanghai」アップグレード後の売り圧に関する分析レポートを発表した。
コインベースは規制環境については警戒感を示しつつ、ステーキングコントラクトから解放されるETHの売り圧力は1日のごとの出金制限によって緩和され、新規購入需要によって相殺されるとの見解を示している。
規制環境が見通しを多少混乱させたとはいえ、公開市場でのETHの流れをコントロールする緩和要因と自己修正メカニズムがあると考えており、売り圧力はかなり限定的であると言える。
イーサリアムは、マージ後の最初のアップグレード「Shanghai(上海)」を23年3月〜4月にも実施予定。執筆時点でステーキングコントラクトにロックアップされている1,650万 ETH(約3.5兆円相当)とステーキング報酬が初めて出金可能になる予定だ。
コインベースは“上海”後のステーキングETHの出金需要の一つとして、仮想通貨取引所クラーケンの出金分として少なくとも35万ETH、最大114.5万ETHを想定する。
米証券取引委員会(SEC)との和解の影響で米国でステーキングサービスを停止するクラーケンは、ステーキングETHの約7%(123万ETH)を占めているが、米国外資産も含まれるとの見立てだ。
コインベースはまた、ステーキングETHの出金需要の別の一つとして、執筆時点で51.6万のアクティブバリデーターに分配された報酬(約103万 ETH)のうち34万ETH(700億円)が市場に流出すると試算する。仲介サービスでステークされている64万ETH(67%)の報酬は、複利のために新規ステーキングに回されるとの見立てだ。
以上を踏まえ、最大114.5万ETH+34万ETHが市場の売り圧として機能する可能性があるが、イーサリアムでは一定期間の出金量に上限が設けられている。
ステーキング報酬だけを対象とする「部分引き出し」と報酬+バリデーター要件(32ETH)も引き出す「全体出金」とで条件は異なるが、コインベースは現在のバリデータ数に基づいて「この2つのソース(クラーケンと報酬引き出し)から、1日当たり最大11.8万ETH(138億円)が売却される可能性がある」と要約する。
分析会社TIEによると、ETHの1日の取引量は過去30日間で平均82億ドル(1兆円)であることから、11.8万ETHの売却量は「簡単に市場に吸収されると考えている」とコインベースは主張した。
ステーキング需要を喚起
実際には、クラーケンで出金を余儀なくされた投資家が、別の場所でステーキングを再開する可能性もある。コインベースはまた、イーサリアムの全体供給量におけるステーキング率14%と、他のレイヤー1ブロックチェーンの平均値(65%)と比べて低い点に着目。
これまでETHのステーキングに興味がありながらも、上海アップグレード以前は流動性懸念で実行を控えてきた機関投資家を後押しすることになり、ETHの需要を高める可能性があると述べた。
全体として、我々は、ステーキング需要の高まりが、強制的なETH出金量を相殺すると予想している。
コインベースと同様に、上海アップグレードは短期的には一定の売り圧力を引き起こすが、中・長期的には新たなステーキング需要を喚起すると期待する事業者は少なくない。
仮想通貨のインデックスファンド運用会社Bitwise Asset Managementの最高投資責任者Matt Hougan氏は「これまでのような(事実上の)無期限ロックアップが解除されれば、ETHステーキングを求める投資家の割合は爆発的に増える」として、23年末までにETH流通量に対するステーキング率が少なくとも50%上昇すると予測。
投資銀行JPモルガンは「上海アップグレード後にコインベースの個人投資家の95%がイーサリアムのステーキングに参加する可能性がある」と指摘しており、コインベースの年間収益が現在価格で2億2500万ドル(295億円)から5億4500万ドル(700億円)まで拡大すると試算している。
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