ステーブルコインのバランスシートを監視
国際決済銀行(BIS)のイノベーション・ハブ(IH)部門は2023年の優先課題を発表。今年の事業計画には、IHのロンドンセンターが立ち上げた、ステーブルコインの監視システムを開発する新たなプロジェクトも含まれている。
プロジェクトの名称は「Pyxtrial」。名前の由来は13世紀に英国で始まった「Trial of the Pyx」(Pyxの裁判)で、新たに英国で鋳造された硬貨が規格を満たすものかの厳密な検査を指す。今日でも毎年2月、ロンドンの高等法院が主宰し、儀礼として行われている。
Pyxtrialプロジェクトでは、ステーブルコインのバランスシートを監視するためのプラットフォームの開発を目指す。IHは「ほとんどの中央銀行には、ステーブルコインをシステム規模で監視し、資産と負債の不一致を回避するためのツールがない」と指摘。そのため、同プロジェクトは、規制当局がデータに基づく政策の枠組みを形成するのに役立つ技術ツールを調査するという。
ロイターの報道によると、BISはいくつかのステーブルコインとそのバランシスシートについて、様々な試験とシミュレーションを行い、年内には予備的な調査結果を発表する予定。ステーブルコインの裏付けとなる資産についての実態をより明確にすることが期待されている。
BISとステーブルコインの基準
BISの市場インフラ委員会(CPMI)と証券監督者国際機構(IOSCO)は昨年7月、ステーブルコインに対する規制ガイダンスを発表。ガイダンスでは、「同一リスク、同一規制」の原則を適用し、ステーブルコインの取り決めについて、支払・清算・決済システムに関する国際基準を遵守すべきとしている。
また、BISの中央銀行総裁・監督責任者グループ(GHOS)は昨年12月に、銀行の暗号資産(仮想通貨)取り扱いに関する世界的な基準を発表。伝統的な銀行においては、仮想通貨の保有上限を資産総額の2%までと設定し、2025年1月1日までの実施を目指す。
新たな基準では、仮想通貨をグループ1とグループ2に分類。グループ1には、トークン化された伝統的な金融資産や、米ドルなどと紐づけられたステーブルコインが含まれる。ステーブルコインが、グループ1に分類される監督・規制要件やリスクテストも規定されており、「償還権やガバナンスが強固な、規制された主体が発行するステーブルコイン」のみが適格とされる。
裏付けのない仮想通貨や有効な価格安定のメカニズムを持たないステーブルコインはグループ2に分類される。
ステーブルコイン規制の現状
時価総額で上位3位までのステーブルコイン(USDT、 USDC、 BUSD)だけでも、その市場規模は16兆円を上回る。また、その価値が法廷通貨に紐づけられており、金融安定性への影響も大きいため、各国の規制当局と中央銀行は、ステーブルコインの適切な規制の枠組みづくりを重要な課題として位置付けている。
日本では昨年6月に参議院でステーブルコインに関する規制法案が可決され、規制整備が進められている。
欧州では仮想通貨についての包括的な法案「MiCA」に、ステーブルコイン規制が含まれており、その最終投票が間近いと見られている。一方、米国では昨年からステーブルコインに関する法案が議論されているものの、まだ法案の提出には至っていない。
韓国の中央銀行は昨年12月、仮想通貨規制に関する報告書で、ステーブルコインに特別規制を設け、中銀がその監督の任を負うべきだと主張した。
そんな中、香港では今年1月31日に、金融管理局が仮想通貨とステーブルコインの規制に関する方針を発表。ステーブルコインについては、規制対象となる活動や包括的な規制の枠組みを示した。ステーブルコインの構造に応じたリスクを評価し、関連活動を行う団体に対しては、ライセンス所得を義務付ける予定。
同局が示した規制の原則では、ステーブルコインの完全な裏付けと額面での償還を求める。そのため、裁定取引やアルゴリズムで価値を安定させる無担保型のステーブルコインは不可となっている。
なお、日本の金融庁も今後、アルゴリズム型ステーブルコインの規制を強化する可能性があることが、昨年12月に行われた講演のプレゼン資料から明らかになった。
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